会津大学大学院博士前期(修士)課程のすすめ

卒業旅行で行った網走

はじめに

修士(コンピュータ理工学)の新冨です。私は、会津大学大学院の博士前期(修士)課程で情報技術・プロジェクトマネジメント(PM)専攻に所属していました。

本記事は、会津大学大学院博士前期課程 情報技術・プロジェクトマネジメント専攻に所属していたひとりの学生の活動、大学院で積んだ経験や得られた能力についての記録です。

この文章は、これから大学院への進学を検討している学生、PM専攻の内情を知りたい学生を対象としています。 この記事を通して、読者に有益な知見を提供できていたら幸いです。

私が修士課程の1年目を終えた時点での感想を述べた記事はこちらになります。

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会津大学大学院博士前期課程

博士前期(修士課程)

会津大学大学院博士前期(修士)課程は、いくつかの授業科目単位、10つのセミナー単位、修論(もしくは相当)の単位を取れば修了することができます。 会津大学大学院には、2つの専攻があります。 コンピュータ・情報システム学(CIS)専攻と情報技術・プロジェクトマネジメント(PM)専攻です。 私はPM専攻に所属しており、私が入学した年(AY2022)は授業科目の単位は22単位取る必要がありました。 今ではPM専攻もCIS専攻もどちらも授業科目単位は16単位で良いようです。 授業のスケジュール感は学部と一緒なので、こちらの記事を参考にしてください。

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PM専攻とは

会津大学大学院の修士課程の学生の内ほとんどは、コンピュータ・情報システム学(CIS)専攻に所属しています。 私の代には、学生は80人ほどいましたが、4人がPM専攻という状況でした。 またPM専攻の存在を認知している学生は会津大学の中でもあまり多くありません。

u-aizu.ac.jp

例えばこの記事は、明示していませんが、CIS専攻のことについて触れています。

note.com

PM専攻の大きな特徴の1つは、修論を書かない代わりに4回のテクニカルレポートの執筆及び発表があることです。 その4回のテクニカルレポートの執筆と発表を合わせることで、修論と等価なものとして認めるそうです。 それに対して、CIS専攻は、通常の修士課程と同様に修論を1回書いて終わりです。

PM専攻では、2年間を4つのアリーナと呼ばれる期間に分割し、それぞれの期間の最後にテクニカルレポートとその発表をします。

PM専攻では、その名の通りプロジェクトを運用するため、複数人のメンバーで共同でプロジェクトに取り組むことが推奨されています(「推奨」という表現を使ってる理由は後述します)。 プロジェクトのテーマは毎年教員が決めており、こちらのWebサイトにテーマが列挙されています。

http:// https://u-aizu.ac.jp/curriculum/graduate/it-specialists/features/project.html

またセミナー科目は、CIS専攻とPM専攻で異なります。 PM専攻のセミナーはこちらのWebページに列挙されています。

u-aizu.ac.jp

私の場合は次のセミナー科目を履修しました。

  • PM研究セミナー
  • カンファレンスプレゼンテーションセミナー
  • 教育セミナー
  • Teaセミナー
  • コンテスト

私の博士前期課程での活動

大学院へ進学した経緯

こちらの記事に動機が書いてありますが、もう少し具体的な事柄を追記して簡潔に書き直したいと思います。

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前提

私は、コンピュータが嫌いではない、むしろ好きです。 コンピュータの仕組みを知れるのは楽しいです。 1日8時間ほどディスプレイを見ていても肩は凝らないし、苦ではないです。 自分で組んだソフトウェアが、ピタゴラスイッチのように精密に安定して噛み合ったときの達成感他では得難いです。 このような前提のもと次の4つの理由が組み合わさって院進を決めました。

  • 研究への興味
  • 博士号への憧れる
  • 当時の精神状態
  • お金

前半の2つについては、次に述べたいと思います。 後半の2つについては、余力があれば後日別の記事で書きたいと思います。

研究への興味

私の研究の動機は、一言で言うならまだ見ぬ新しい面白いソフトウェアアプリケーションを作りたいからです。 学部2年生の後半の頃に"ARポーズエフェクト"というiOSのARアプリを作成し、会津若松市のデジタル未来アート展にアプリを出展しました(オリジナルのページが消えていたので、Internet archiveの URLを添付しています)。

https://web.archive.org/web/20230127075702/https://www.city.aizuwakamatsu.fukushima.jp/docs/2022022800015/

このとき用意されたAPIを叩くだけでは面白いアプリケーションが作れないと漠然と思いました。 用意されているAPIの裏側の技術や理論を知れば、より面白いものが作れるのではないかと考えて、そこから研究に興味を持ち始めました。 実際最先端のソフトウェアアプリケーションは、研究成果由来のものが多いです。 最近話題のChatGPTなども、GPT-3の研究成果をもとに開発されています。 研究の一端を知ることで私の直感は間違っていないことが分かりました。

博士号への憧れ

博士号ってかっこよくないですか? 私はかっこいいと思います。 また博士号は、医師免許といった資格とは違い、世界で通用する資格です。 医師免許の場合、国ごとに資格を取り直す必要があるそうです。 その点博士号は一度取れば良いらしいです。 また肩書きに"Dr."を入れられるそうです。 そのため名刺などには"Dr. oo"と書けるそうです。

私の2年間の活動

私の2年間のスケジュール
私は学部から所属する研究室で、もう1人の同期の学生と共に2人で、研究室で決められたプロジェクトに参加することにしました。 私は、深層強化学習によるスポーツ走行の自動運転というテーマでPM専攻のプロジェクトに2年間取り組みました。 プロジェクトへの参加の経緯は、こちらに書いてあります。

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私は、卒論ではRGB-Dカメラを用いたオフライン三次元再構成についての研究に取り組んでいました。 卒論の内容を洗練させることで、修士1年の6月には国際学会に提出しました。 修士課程では、強化学習によるスポーツ走行向けの自動運転をテーマに研究・PM専攻のプロジェクトに取り組んでいました。

毎週研究セミナーと教育セミナーに相当するゼミを、それぞれ1回やっていました。 前者のセミナーは、研究の進捗について報告する場、後者のセミナーは、関連研究の論文を紹介する場として機能していました。 自身の発表は1ヶ月に1度回ってくるという頻度で行っていました。

その時点でのまとまった研究成果を国際学会や国内の研究会に筆頭や共著の形で論文を執筆していました。

2回のコンテストは、現実世界の自動運転レースに参加しました。 1回目のレースは4人で参加、2回目のレースは12人で参加しました。

Teaセミナーでは、アリーナの発表の直前に、アリーナで使用する資料の初稿を発表する場として、知り合いのPM専攻の方と行ってました。 研究室内輪読回では、わかりやすいパターン認識と深層学習を使用し、毎週1回研究室内のメンバーで読み合わせを行っていました。 どちらの本も途中で終了する形となってしまいました。

私は、3次元再構成の卒論が終わる間際に、NeRFという研究・研究分野の存在を知りました(NeRFの簡単な解説)。

NeRFのオリジナルの論文

arxiv.org

NeRFに非常に興味を持ちましたが、NeRFがニューラルネットワークを使っていうことだけしか理解できず、とりあえず深層学習を勉強しようと考えました。 そこで大学院にいる深層学習に詳しい・興味がある学生を集めて、深層学習第二版を用いて深層学習の輪読会を毎週1回開くことにしました。

最終的に7人のメンバーが集まり、毎回の輪読会が刺激的でした。 前期の内に深層学習第二版が終わったので、その次に統計学入門の輪読会を行いました。

修士2年になってからは、私がその輪読会を抜ける形となりました。

就活は、12月から3月の間行っていました。 詳しい就活の内容に関しては、こちらの記事を参考にしてください。

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4月の上旬に就活を終え、4月の中旬から8月上旬までは内々定を承諾した会社で内定者インターンを行いました。 週に2回8時間のフルタイムで働くことになりました。 内定者インターンでは、大規模なソフトウェアの構築の方法やコーディングのお作法、良いPull Requestの作り方など学ぶところが多数ありました。 そこで得られた経験は、その後の研究やプロジェクトマネジメントに非常に役に立ちました。 また、時給も良かったため、夏休みの一人旅や新生活の準備費として役立っています。

定期的にいくつかの授業、修学支援室のTAを行っていました。 授業のTAに関しては、先生からのお願いなので断ることができませんでした。 修学支援室で得られた会話や人脈は他では得難いものだったので、働けてよかったです。

ボランティア活動として、東京の青梅市で開催されている子どもIT未来塾という活動に2年間参加していました。 活動の概要はこちらのページにまとまっています(本来のURLはページがNot Foundだったので、Internet ArchiveのURLを載せています)。

https://web.archive.org/web/20230325030604/http://www.sato-zaidan.or.jp/r04/kobetu-3-2-2.html

部活では、トライアスロン部に所属しながら、スイム練とイベントと飲み会に参加する人になっていました。 毎週2回のスイム連に行く努力はしていましたが、やはり研究などが忙しく、行けないときも多々ありました。

活動を通してのPM専攻の学生のスケジュールの例の疑問点

会津大学のPM専攻の紹介ページには、PM専攻の学生のスケジュールの例が記載されています。

PM専攻の学生のスケジュールの例

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私からすると、このスケジュールには2つ疑問点があります。

  1. 1年生のQ1で8単位を履修していること
  2. 国際学会の論文執筆が遅過ぎること

1つ目に関して、私からすると、大学院の授業を1学期で8単位を取るのは、かなり無茶をしていると思います。 確かに授業科目のみに集中できる環境であれば、1学期で8単位を取ることは不可能ではないと思います。 しかし、その場合、PM専攻のアリーナIの活動がほとんどできないと思います。

2つ目に関して、PM専攻の学生は、国際学会で論文を発表することが推奨されています。 国際学会で論文を発表することが、セミナー科目の単位の要件です。 発表しなかった場合、テクニカルレポートに加えて、修士論文を発表することが求められます。 そのため、国際学会での発表は何としてでも行いたいところです。 しかし、このスケジュールでは、最後のアリーナであるアリーナIVで、国際学会の論文を執筆しています。 仮にこの国際学会の論文がリジェクトされた場合、修士論文を書くことになりますが、あまり時間のない状況での修士論文の執筆となります。

この2つの観点から、私からするとこのスケジュールは、かなり無茶や博打をしているスケジュールのように感じます。

修士課程で身についたこと

私が修士課程の2年間で身につけた能力の内、身につけた、伸ばせた能力は次のようなものがあると考えています。

  • 行動に対する説明力
  • 言語化能力
  • 記録を残す重要性
  • スケジューリング能力
  • 立場を考えたコミュニケーション

行動に対する説明力

とにかく大学院では、1つの行動を起こすと、その行動の説明責任が求められます。 あれがしたい、これがしたいと言うと、なぜそれをやるのか、今やる必要があるのか、他にもっと良い選択肢はないのか、という言葉が返ってきます。 例えば、ある実験を行い、ある手法で評価したとき、次のような質問が来ます。

「なぜその実験を今したのか。別の実験の方が優先順位は高くないのか」 「実験で使用したAのパラメータはなぜその値に設定したのか」 「その計測方法の精度はどれくらいなのか」 「その評価手法は妥当なのか。別の手法の方が妥当ではないか」 などなど、質問や指摘をされます。 そのような環境で過ごすことで、常に選択した行動を説明できるようになりました。 別の表現としては、目的と目標意識を常に持つようになったとも言えるかもしれません。

言語化能力

論文を執筆するということは、ある事象を簡潔に厳密に文章で表現することを求められます。 指導教官や共著の学生と議論を重ねることで、より良い表現を学ぶことができました。 修士課程に在籍中に、徐々に厳密な言葉遣いや文章表現が身についてきてから、自身の思考が明瞭になってきた気がしました。 考え事をしていても、頭の中のモヤモヤが残っていることがあったのですが、修士課程の1年目が終わる辺りで、それがなくなっていることに気づきました。 このとき初めて自分の言語化能力が向上していることを実感しました。

記録を残す重要性

研究や長い期間に渡るプロジェクトを行っていると記録を残す重要性を実感できます。 自動運転の研究を行っていると、実験環境、使用したデータ、自動運転モデル、走行動画、ラップタイムなど1回の実験で生成されるデータの量は多く、また記録されるデバイスもそれぞれ異なるため、それらをまとめ一括で保存する仕事が重要になります。 記録をしておかないと、後の実験レポートや論文を書くときに情報が足りないといったことや、再現実験ができなくなる危険性があります。 私は、研究のプロジェクトを2人以上のチームで行なっていることから、自己完結できず、常に方針決めや仕事を振る際にコミニュケーションを取る必要があります。 なぜその方針に決定したのか、他にどのような選択肢を考慮したかといった過程の情報は、結論と同様に重要です。 修士課程の初期の頃は、この重要性に気づいておらず、記録を取ることを怠っていました。 この怠慢により、なぜこのタスクを行なっているのか不明になることがありました。 また様々な知識を文章化しておくことで、新たにプロジェクトに参加したメンバーに対して、いちから説明する必要が減り、「この文章読んでおいて」ということが可能になりました。

スケジューリング能力

PM専攻で4回のテクニカルレポートの執筆や、数々の論文の締切を経験して、スケジューリング能力が向上したと思います。 損切りポイント、先にやっておけば、後々楽に進められること、今やっておかなければ忘れてしまうから、今の内に記録しておこうなど、先を考えて行動することが多くなりました。 また多くの終わらない実験計画と締切の狭間でもがき続けた結果、将来起きる未来を想定し、最悪のパターンを想定し、一番マシな転び方を考えことが多くなりました。

立場を考えたコミュニケーション能力

数々のプロジェクトの運用や様々な立場の人が集まる場での講義の主催などで、色々な立場の人間と話すことがありました。 また日々の進捗報告用の文章や論文執筆を通して、どこまでが客観的事実なのか、どこからが主観が入り込んでいる文章なのか常に意識して書くようになりました。 その結果、相手や読み手がどこまで理解しているかを想定してから、自分が話し、文章を書く習慣がつきました。

特に研究室内の12人から構成される学生のプロジェクトを3ヶ月回したのは良い経験でした。 タスクの依存関係を頭の中でシミュレーションし、待機状態の人を極力減らすように努める必要があり、マネージャーの苦労が少しわかった気がします。 最近では、世の中で開催されている大きいイベント等を見ると、裏方の人間の苦労に想いを馳せるようになりました。

修士課程の良し悪し

良い点

私にとって、修士課程で良かった点は次の項目が挙げられます。

  • 上述の能力が得られる
  • 学割の恩恵を引き続き得られる
  • 遊ぶ時間も増える

前半2つに関しては、その通りです。 「遊ぶ時間が増える」に関してですが、私は修士1年の頃、後述する焦りや疲労でかなり疲弊していました。 もう1年この勢いは維持するためには精神力も体力も足りないと考え、適度に力を抜くことを覚えました。 そこで稼働する日は、しっかりと稼働し、休む日はしっかり休むことを意識しました。 やはり学生でしか実現できない時間の使い方があることも自覚したため、修士2年は全力で休日を満喫しました。

夏には、東京から寝台列車で島根まで行き、そこから青春18きっぷ日本海側の鈍行で会津に帰ってくるという1週間の旅行をしました。 卒業旅行では、北海道の知床、熊本の阿蘇に行くといった経験もしました。

乗車したサンライズ瀬戸・出雲

結果的に大学生活で多くの日本の土地を訪ねることができました。 色付いている場所が、私が訪れた場所を意味しています。

私がこれまで訪れ、写真を撮った場所の地図

悪い点

中学校や高校の友人などがライフステージを上がっていることに対する焦り、自分のやっていることは本当に価値があるのかという不安、何個終わらせても消化しきれないタスクリストを見るときの徒労感や絶望感、休日中も頭の片隅に残るタスク、訪れない休日などが挙げられます。

PM専攻についての感想

良い点

CIS専攻の修士論文を書き、発表する場合、1回しか機会がありません。 しかしPM専攻のテクニカルレポートを書き、発表する場合は、4回機会があります。 つまり試行錯誤の機会が多いです。 私の場合、やはり回数を重ねることで洗練された目的意識、プロジェクトの運用、文章表現、プレゼンテーション資料ができた実感がありました。

PM専攻を修了すると、大学から修士号(コンピュータ理工学)とITスペシャリストの修了証がもらえます。

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通常の緑の学位記の証書入れに加えて、青色の証書入れももらえます。 この青色の証書入れをもらう他の手段として、成績優秀者として表彰される方法があります。 他の人が緑の証書入れ1つしか持っていなのに対して、PM専攻を修了すれば緑と青の2つもらえるため、ある種の優越感に私は浸れました。

学部と修士で得られた学位記とマウスパッド

先述の通り、私は研究室の同期と共に2年間プロジェクトに取り組みました。 Gitの導入による共同開発の効率化、ミーティングの進行、タスクや進捗の管理、相方が不調の時の檄の入れ方、チームメンバーの得手不得手を考慮したタスク分割、など様々なことを学べました。

PM専攻の場合、取り組むプロジェクトによっては、世間一般のいう「プロジェクトマネジメント」の知識が通用しないことが多いです。 特に研究志向の挑戦的なプロジェクトを進める場合、不確定要素が多く、マネジメントに非常に苦労すると思います。 そのギャップを実感し、不確定要素の切り崩しからPM専攻は始まります。 そういった環境で揉まれた結果、私は修士課程の終盤ではプロジェクトの帳尻合わせを行い、何とかプロジェクトテーマの大きなマイルストーンの内1つを達成することができました。

悪い点

私は、CIS専攻の修士論文を1回書くだけの方が楽だと思います。 PM専攻の場合、2年間でチームでテクニカルレポートを4本仕上げる必要があります。 私のチームは、それぞれのテクニカルレポートのページ数はそれぞれ約25、40、90、70ページ程になりました。 2人で書いているとはいえ、それなりに大変です。 幸いにテクニカルレポートの言語は、条件付きですが日本語が認められていたので助かりました(詳しい条件は学生課等に聞いてください)。 負荷的には、おそらくテクニカルレポート1本あたり修論1本なので、4回修論書いている負荷になると思います。 ここの負荷は完全にプロジェクトごと、チームごと、指導教官ごとに変わると思います。

PM専攻の現状の制度に対する疑問

AY2022に入学した私目線のPM専攻の現状の制度に対する疑問です。 時間が経ち改善されている場合もあるので、興味がある方は自身で調べてみてください。

PM専攻は、かつて別の名称だったコースを最近PM専攻という名称に変えたそうです。 その名残からか、学生ガイドやPM専攻の文章で表記揺れが多々発生している気がします(私が同一視しているものが実は別々という可能性は否定しきれませんが)。 また明文化されていない規則や慣習が多数あります。 特にセミナーの単位要件やテクニカルレポートの提出要件についての記述が曖昧です。 そのため、規則や要件などの文章を読み、曖昧な表現があった場合、いちいち専攻長や学生課に聞く必要がありました。 PM専攻というコースで、2年間に渡って私はある種のデバッガーのような立ち回りをしていました。

先述の通りPM専攻は1つのテーマを選択しプロジェクトに取り組みます。 一方で学生ガイドを読む限り、アリーナごとにテーマを変えてよさそうに見えます。 一見すると矛盾があるように見えますが、 2年間で取り組む大まかな1つのテーマを決め、そのテーマの範囲から逸脱しない領域内でアリーナごとに異なるテーマに取り組んで良い、ということが実態のようです。 指導教官の話を聞く限り、アリーナで執筆したテクニカルレポートを1つの修論とみなして、教授会に審査がかけられるようです。 そのためアリーナ間で大きく異なるテーマを扱った場合、教授会で審査する際に、なぜそれぞれのアリーナで大きく異なるテーマを行ったのか説明を求められる可能性があるそうです。 学生課もしくは専攻長から事前にこの仕組みの説明をして欲しかったです。

PM専攻は、複数人で1つのプロジェクトに取り組むことを推奨しています。 1つのプロジェクトに1人で取り組むことも可能です。 ここで1人でプロジェクトに取り組んでいる学生のことを「ソロ学生」とでも呼びましょう。 学則の都合なのか分かりませんが、PM専攻長はソロ学生を複数人まとめて1つのチームを組ませます。 ここで改めて学生、プロジェクト、チームの関係性を整理してみましょう。 私の場合は、学生が2人で、1つのプロジェクトに、1つのチームとして取り組んでいました。 私が知っているソロ学生の場合、学生が3人で、3つのプロジェクト、1つのチームという形態がありました。 私は、このソロ学生のチームの存在意義に疑問を感じます。 またチーム内のソロ学生同士でのミーティングは、Teaセミナーの対象にならないという罠もあります。 これも学則などに明記はされていません。

PM専攻は、CIS専攻よりも学生間での交流を求めている特色があります。 チームでプロジェクトに取り組むことや数々のセミナーの仕組みは、その証だと思います。 しかし、PM専攻の学生間での交流の場が用意されておらず、私は最初のTeaセミナーを行うのに苦労しました。 たまたま同期のチームメンバーが、他のPM専攻の学生と繋がりがあったため、何とかTeaセミナーを行うことができました。 このような場は、本来大学側がPM専攻のオリエンテーション等で設けるべき場であり、学生間の繋がりを当てにしてはいけないと私は思います。

私が大学院に向いていると思う人間

大学院は、1つでも好きなことがあり、追求できる人間であれば来るべき場所に思えます。 追求した結果、分野の限界を越えるのか、己の限界が先に来るのか一心不乱に試せる場所だと思えます。 学部生の前半は授業に忙殺され、社会人になったら仕事の合間を縫わなければそのような時間は作れません。 学部生の後半から大学院の期間は、それが許される貴重な時間だと思います。

他に大学院に向いている人間の特徴としては、一心不乱に努力できるが、その努力する対象を探し続けている人間だと思います。 不屈の精神、崖っぷちの状況でもしがみつく覚悟がある人、1つのことをやり通す胆力を持っている人は向いていると思います。 その強さがあれば、あらゆる困難を乗り越えることができるからです。

博士前期課程を終えた感想

会津大学大学院博士前期(修士)課程で得られた経験は、所属していた研究室、指導教官、所属していた専攻、共に活動していた同期の学生の4つの要因が非常に大きいです。 例えば、研究とは関係ない最近流行りの技術について議論できる指導教官や同期がいたのは幸運でした。 また指導教官のお墨付きをもらえるくらいに同期のチームメンバーとの相性に恵まれました。 修士課程に入ったからといって、必ずしもこれらの経験が手に入るわけではありません。 ぶっちゃけ再現性のない経験です。

私は、修士課程を修了したことで、学部だけでは絶対に見えなかった景色が見えたと感じています。 私自身の能力も明らかに向上した自覚があり、ソフトウェアエンジニアとしての視座も高くなったと思います。 実際に修士課程に在籍している際に得られた能力が、実際に就活や内定者インターンで役に立った実感があります。 修士課程は、決して楽ではありませんでしたが、私にとっては、修士課程を修了する価値はあったと断言できます。

生存者バイアスだと思いますが、人生で一度くらい死ぬ気で何かに打ち込まないと見えない世界はあると考えています。 やれあそこの研究室はブラックだ、ここの研究室は楽だ、といって目先の損得勘定で物事を決める人もいます。 覚悟を決め努力をした学生は、そのような学生とは基礎能力や思考の深みが違うように私は感じます。

おわりに

私は、指導教官、ラボのメンバーからもパワー系、フィジカル系という称号をもらっていることから、それなりに体力はあるのだと思います。 そのため私の活動記録は、多くの学生にとっては参考にならない可能性はありますが、悪しからず。

私にとって博士前期課程は人生の修行でした。 辛いときもありましたが、ここでしか得られない経験を積めました。 私は、この修行を経て自身の思考が深まり、視野が広がったと感じています。 後悔はしていません。 むしろ感謝しています。

私は飛び級をしてPM専攻を修了しましたが、職員曰くそのような学生は会津大学で初めてらしいです。 やったね。